殺意と炎天下の純情

吐いて捨てるほどの

洗い晒し

 

自分に無いものを持つ人を羨ましいと思う反面、

全く羨ましいとも思ってないというのが僕の悪いところである

賭けなければ当たらないが、当てるために賭けるというのは些か愚かである

僕にとってはそうであるだけで、そうではないことも理解している

一切合切の可能性を見棄ててみる

祈りが願いに、願いが願望に成り果てる様を見て君はどう思うのだろう

醜悪な匂いが辺りに拡がる様を

僕にはそれが耐えられない

君は強くて、僕は弱いから

時々、たったひとつのコップを洗うことができなくなる

それはいつも思ったより長く続いて、

ある日忽然と姿を消す、何事も無かったように

 

 

雑記

 

 

冬ってけっこう忙しい

夏の暑さに負けただらしない僕が残したやり残しを全部、年が明けるまでにやらないといけない

部屋を片付けて、窓を拭いて、シーツを替えないといけない

 

幾度となく季節が廻って、時間が過ぎて、

幽霊のように生きていた頃の記憶がすっかり抜け落ちてしまった

僕の身体を巡っていった風は今何処を亘っているのだろう

 

寂しい気持ちを1秒抱えると、それを引き摺ってしまうのは何故だろう

がらくたを掻き集めて作った部屋

もう何処にもない僕の抜け殻

擦り傷だらけになった指先が冷えた風に切り刻まれている

頬に微かに残った君の香りが立ち上る

 

三千百五十三万六千秒の過ぎる速さを思い出しながら、

そのうちの三千六百秒を街の灯りを眺めるために使った

バニラの甘い香りがする人とすれ違うと

クリスマスが近づいていることを知る

ひとりでは知り得ない

それとなく物悲しいのは君と手をつなげないから

 

耳障りな周波数を丁寧に切り取って

コラージュした日記帳

僕のゴーストタウンに駆け巡る夜が

やさしくいのちを狩り獲っていく

 

 

 

 

 

 

人に自分のことを話す時、

うまくできなくてつい笑ってしまう

自分を茶化しているのが自分自身

静かにゆっくり話したくても

大きな声で笑って誤魔化している

だって、静かにゆっくり話したら

みんな僕のこと心配する

静かにゆっくり話を聞いてくれてしまう

僕もどうしたらいいかわからないんだけど

人が自分に真剣な顔を向けてくれることに

あまり耐えられない

ましてやそれが自分のために使われている時間だと尚更耐えられない

笑って聞いてくれた方が楽なのに

ああまた笑ってしまったって思う

だからいつも僕は1人でいるとき静かになる

僕いっつも違う顔してるけど

本当は湿ってて暗くて砂の香りがするんだよ

 

Gardenia to safflower

 

夕暮れの空がメロン色の日

家に帰る道がとても静かで

静かに蝉が喚いていて

気温はもうそこそこに落ちついていて

小さな頃に体感したあの夏そのものだった 


その日の記憶と違うのは今僕が仕事帰りで

煙草を吸いながらこれを書いていて

目線が高くなったこと

昨日よりも体調は悪かったが

いつになく機嫌がよかった

 

昨日ドンキホーテでふざけて付けた

綿飴みたいに甘ったるい香水のにおいが

まだ香ってるような気がした

ひとりでこっそり齧る氷菓子は

ちょっとだけ悪いことをしてるようで

いつもより冷たく感じる

 

今月の給料のことを考えて

月のやりくりを考えている時間があって

大人になってしまった自分も

今は悪くないと思えた

 

メロン色の空がいつのまにか

葡萄色に変わっていて

まだ来ない秋を待ち望んでいる

 

海豚の夢

 

渋谷のお気に入りの喫茶店が無くなったことが

途端に、胸が苦しくなるほど悲しくなった

もう3年も前のことだった

あの時抱えた感情にやっと

身体が追いついたのかもしれない

 

僕たちには、失われていくひとつずつを

失うことそれだけをひとつひとつ確かめて

すり抜けていくことを見守ることしかできない

 

そこには僕たちの手に負えない

絶対的な何かの力が働いていて

それは多分、潮の満ち引きの様な

 

「気づいた時にはもう遅く」て、

その時には既に、その幾つも前の段落で

始まっていたこと、もう無くしていたこと

もしくは初めから、プロローグから

イントロから、序章から

既にそれは決まっていたこと

失うことが予め決められた始まりを

実はなんとなく僕は知っていて、

だから、断絶に冷たいのかもしれない

人も、物も、風も同じだった

 

選ばなかった選択肢を下書き保存したまま

後悔するわけでもなく、たまに眺めている

プログラムされた僕たちじゃないから

間違える事を諦めるより他にないのだ

 

気まぐれ、過ち

 

御守りみたいな曲がイヤホンから流れてくる

僕は帰りの電車を乗り過ごしているところだった

 

すっかり日が暮れた勝手のわからない駅のホームで、虫みたいにゴミが浮遊する

やたらと、落ち着いた空気が、

ある種の居心地の悪さを作り上げていた

蛍光灯が近くて、そしてやたらと強くて

 

やっと来た車両は夜の上り列車だから

座席を二つも三つも占領する人が多い

酒を呑む人、布団のように眠る人、

大きな声で電話する人

それらがなんとなく許されている空間で、

僕は膝をぺっとりくっつけて小さく座った

野蛮だ、そう思った

 

来た道を戻る形で僕の駅を待つ

今度は逃さないように、穴が開くほど

電光掲示板を見つめて

ドアが開くと冷えた空気の代わりに

温い風が差し込んだ

クレヨンのような甘い匂いがした

 

 

涙と共に苦しそうに声を吐き出すことに合わせて雨が降り始める

僕たちはずっと哀れで美しかった

全ての身体が柔らかくなってしまった獅子の様で

金色の立髪がマリーゴールドのように腑抜けている

 

愛しているということ

急に雨が降り出した時に、君は傘を持っているだろうかと心配になること

愛しているということ

星が綺麗だと君に教えたくなる夜のこと

愛していたということ

君が涙を流すことがないように祈ること

 

僕が本当はまったく元気ではないということを

誰にも見抜かれないということに

喜ぶべきか悲しむべきか

 

西陽が差し込んで、痛いな

僕らの網膜など焼き尽くしてくれないだろうか

乗り込んだ車の風を切る音が

静かで、煩くて、痛いな

身体の中身がぐらぐら煮えていて

それをずっと誤魔化しながら息をしている

 

開いていたことがない喫茶店

行き先の無くなった水道の管

伸び切った草木のよれた姿

痛くて、痛みながら

少しずつ風に晒されていく