殺意と炎天下の純情

吐いて捨てるほどの

 

春、新しい風が否応なしに吹いている朝の電車で、新しいエネルギーがそこかしこに芽吹いていることに薄々気づきながら、それが目に入らないように突っ伏して寝たふりをしている。毎日。

カサカサになった肌を撫でては溜息を吐き、あと何駅か、あと何分か、腕時計と電光掲示板を交互に眺めてはまた溜息を吐き、鉄の天井を仰いで、轟音の隙間に居る無音に全てを委ねてみる。

 

記憶の残党に感覚を澄ませて頭の中の引出しをひとつひとつ開けていく

すると、思っているよりも、私はいろんなことを思い出せないし、

思っているよりもいろんなことを、忘れられないままでいることが解る

 

睫毛が疼いて抜けていくみたいに、砂時計の砂が落ちていくように

滑り落ちた記憶の断片を、搔き集めること 

そういうことはもうしなくてもいいと

そう思ってもいいと言われたような、そんな腑抜けた香りがする都会の春だ

 

地獄は案外、簡単に見つかるようで、実はそうでもない

地獄側が私を招き入れてくれないと、私は業火に焼かれることすら叶わない

「天使の絵を地獄で眺めることが将来の夢です」と

罪を苛んで、厄災に見舞われて、吹いたら消えるような小さな灯火を、

天まで届く灼熱に変えていけよ この手で!

 

そう思っているのに、そう思ったのに、

私の頭に散った桜の花弁が降り落ちて、

馬鹿みたいに

春が過ぎていく匂いがした