殺意と炎天下の純情

吐いて捨てるほどの

 

 

己の身を投獄し、安堵した心地でいるとき

僕は僕自身を浅はかで愚かだと認識していて

人は僕を憐れな目で眺めている

石壁の部屋は冷たくて居心地が良かった

 

人と会話もしくは対話するということは

僕にとって僕を言葉という方法で具現化するための必要なことであった らしい

(僕の観ている映像は僕以外には見えないため)

 

祈ることと、祈りそのものは

存在のかたちが少し違う

僕は祈りというものそのものを愛していて

祈ることに関してはあまりわからない

祈りは存在のかたちであって、所作ではない

 

言葉には推敲が必要で

一晩、もしくは二晩 時にはもっと多く

僕がほんとうに言いたかったことは何なのか

薄ら闇の夜のしじまで手探っていた

断崖絶壁の絶体絶命ではなく

己の意思で飛び立つことが可能な入江で

由来の不明な引き出しから

途端に飛び出てきたような

そういう歌を口遊みながら

 

石膏色の空が美しくて目を見遣るときに

瞼にかすかな絶望の気配が産まれる

死にたいという簡単なことだけを書きたい時

僕は原稿用紙を3枚も使うのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

春泥

 

グロテスクで、恥ずかしくて、気色悪くて異臭がする

生きることって多分、大概そうなのかもしれない

 

人が、あまりにも多すぎる

多すぎる人が居る

肌の温度も、声も、瞬きも、

全部が違ういのちであることが気持ち悪い

 

気持ち悪いけど、

きっと尊いものなのかもしれない

わかれないけど、多分そうなの

だって、僕の好きな君も

有象無象のひとつだから

 

呼吸をして、血が巡る腕に意識を向けて

わたしのいのちが鳴り響く音を聴いている

 

陽の光に手のひらを翳して、本当に

真っ赤な血潮が流れているのを知って

僕のいのちが紛れもなく此処にあることを

恐ろしく思った

 

 

 

春、新しい風が否応なしに吹いている朝の電車で、新しいエネルギーがそこかしこに芽吹いていることに薄々気づきながら、それが目に入らないように突っ伏して寝たふりをしている。毎日。

カサカサになった肌を撫でては溜息を吐き、あと何駅か、あと何分か、腕時計と電光掲示板を交互に眺めてはまた溜息を吐き、鉄の天井を仰いで、轟音の隙間に居る無音に全てを委ねてみる。

 

記憶の残党に感覚を澄ませて頭の中の引出しをひとつひとつ開けていく

すると、思っているよりも、私はいろんなことを思い出せないし、

思っているよりもいろんなことを、忘れられないままでいることが解る

 

睫毛が疼いて抜けていくみたいに、砂時計の砂が落ちていくように

滑り落ちた記憶の断片を、搔き集めること 

そういうことはもうしなくてもいいと

そう思ってもいいと言われたような、そんな腑抜けた香りがする都会の春だ

 

地獄は案外、簡単に見つかるようで、実はそうでもない

地獄側が私を招き入れてくれないと、私は業火に焼かれることすら叶わない

「天使の絵を地獄で眺めることが将来の夢です」と

罪を苛んで、厄災に見舞われて、吹いたら消えるような小さな灯火を、

天まで届く灼熱に変えていけよ この手で!

 

そう思っているのに、そう思ったのに、

私の頭に散った桜の花弁が降り落ちて、

馬鹿みたいに

春が過ぎていく匂いがした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

他人はくだらないと思うだろうが、自分にとっては重大なことがたくさんある

 

自分でも馬鹿馬鹿しいと知っていても

どうにもこうにもいかないことがある

 

いろんなことを考えすぎたせいで

馬鹿になってしまったみたいで

元々自分が馬鹿なことは知っているけど

救いようがない

 

今まで捨ててきたものがずっと私を見ている

今捨てられないものを大事に抱えている私を

嘲笑ってくる

 

自分は一生こうなのだと実感する

息苦しいのに呼吸はできてしまっていて

どうしようもない

根本的なものというのはなかなか

変わらないようで

自分が今起きていることすら理解出来ない時

早く眠りたくて焦る

 

そうやっていつも私はなんとなく困っている

 

いつも眠たくて苛々している

辛いこと痛いこと悲しいこと目眩がすること

全部嫌いだから眠ったままでいたい

ような、気がする

ぐらぐらして吐きそうで

みんな、どうやって生きているんだろう

 

本当に本当の自分というのが奥の底にいる

自分でもあんまりわからない

暗い部屋でぼうっとしている時になんとなく

どういう形なのかが少し見えるくらいで

誰も知らなくて、私すら知らない

ずっと探してるけど答えが無くて

探している手先の感覚だけがある

 

自分を話す時に茶化してしまう

どれが正解かわからない

困るでしょうこんなこと言われても

そう思って適当な人の顔をしてしまう

 

わかってほしいけどわかられても困るよ

足が痺れて動かないね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだか言いたいこともなくなってきてしまった

いや、言いたいことはたくさんあって、

でもそれが声に出す前に霞になって散ってしまう

多分そういうこと 散り散りに

 

吐くまで飲んで終電に駆け込むお兄さんとか

真っ黒な服を着たおじさんしかいない朝とか

気の強いおばさんとか気の弱いお姉さんとか

ゴミの匂いのする商店街も

青になるのが遅い信号機も

 

全部嫌いで、全部最悪なのに

それを嫌がることすら面倒な時

 

間違いでもなんでもないのに許せないこと

あたしが正しいなんて思ってないのにそれは間違ってるって思ってしまうこと

 

汚くて怪しい空気を肺に入れている時に

ふと思い出す君のこととかも

一体なんなのかわかんなくなる時

 

おもしろいことなんて何も言えない

 

 

 

 

 

そこそこに、

いろんなものを失ってきたと思う

怖くなって怖くなって怖くなって

もう何も失くしたくなくて

なにもない場所にずっといる

いつか壊れるのは形のあるものだけじゃない

もう、あたしも結構ぼろぼろだし

 

大事にしてたものが壊れるのはつらい

時間が経てば大丈夫になるなんて言われて

いっこも大丈夫じゃないままここにいる

全部が呪いで、その呪いから抜け出せない

 

どうせ、きっと、所詮、結局は

 

抜け出そうとも思ってない

後が怖いから

何倍にも膨れ上がって、きっとあたしもう何も

本当に信じられなくなるから

 

もしかしたら、いつか、

なにか、ひとつだけ、

自分以外のなにかを、

信じることができるかもしれないっていう

蜘蛛の糸みたいになってしまった希望を、

見えてないけどきっとどこかにあるかもしれない

可能性の可能性を、

雨風に消えかけてる蝋燭の火みたいだけど

まだ護れてる?

 

こんなふうになりたいとは

思っていなかったのにな